銀行など金融業界の課題とデジタルトランスフォーメーションの活用法3つ
「デジタルトランスフォーメーション」はデジタル技術の導入や活用によって既存のビジネスを変革させる取り組みです。
「DX」とも呼ばれるこの取り組みはさまざまな業界で推進されていますが、金融業界は取り組みが他の業界よりも遅れている傾向にあります。
この記事では、金融業界のデジタルトランスフォーメーションについて紹介していきます。
金融業界が他の業界より遅れてしまっている理由と課題について触れながら、DXをどう活用していけるのか見ていきましょう。
目次
金融業界がDXを進める意味
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術を活用してサービスや業務、ひいてはビジネスモデルそのものを根本的に変えることを言います。
金融業界においても、重要な取り組みです。
デジタルトランスフォーメーションが進めば、今までよりも融資がスムーズになったり、新たなビジネスモデルが生まれたり、事務プロセスを簡素化などが可能でしょう。
また新たな顧客体験の提供や、デジタルに強い企業との競争にも対抗できます。
しかし金融業界はシステムへの依存などにより、デジタルトランスフォーメーションがなかなか進んでいないのが現状です。
今後はシステムやテクノロジーの統合や、仕組みを変更するなどの対応が必要で、課題は多いと言えるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションについては、弊社の別記事「デジタルトランスフォーメーションとは?注目される理由を徹底解説」で詳しくお話ししています。
デジタルトランスフォーメーションについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
銀行など金融業界が抱える5つの課題
まず初めに、銀行など金融業界のデジタルトランスフォーメーションへの取り組みが遅れてしまっている理由と、金融業界が抱えている課題についてみていきましょう。
1. レガシーシステムへの依存
金融業界のデジタルトランスフォーメーションが他の業界よりも遅れてしまっている大きな理由の一つが、レガシーシステムへの依存です。
レガシーシステムとは、時代の変化に追いつけていない古いシステムです。
デジタル技術は常に進化を続けていますが、その変化に追いつけておらず、拡張性や保守性の面で問題を抱えています。
昔の金融業界は、いち早くデジタル化に取り組んでおり、非常に高度なシステムが導入されていました。
しかし、今ではそれらのシステムもレガシーシステム化しています。
金融業界はレガシーシステムへの依存から抜け出せずにいる企業が多く、完全に脱却できている企業が0%なのは金融業界だけというデータも。(参考:経済産業省|DXレポート)
最近ではキャッシュレス決済などを開発しているテクノロジー企業が金融業界にも進出してきているため、既存のビジネスモデルのままでは衰退していくしかありません。
レガシーシステムから脱却し、既存のビジネスモデルを一日でも早く変革させる必要があります。
2. 低所得化や人口減少による収益の減少
銀行などの金融機関はさまざまな方法で収益を得ており、特に大きな割合を占めているのが顧客から徴収する手数料です。
しかし、この手数料で収益をあげるビジネスモデルは限界を迎えていて、無料が当たり前だった口座の維持に手数料を設ける銀行も出てきています。
経済政策や新型コロナウイルス感染症の影響により、可処分所得(税金などをさし引いた手取り収入)は前年比よりも4.6%回復していますが、非正規雇用の増加や地域差により将来的に減少していく可能性が高いです。
(参考:2020年(令和2年)家計の概要|総務省統計局統計調査部 消費統計課審査発表係)
つまり、将来的に顧客の低所得化が進むと予想されます。
低所得化が進むと現在のサービス手数料ではシステムを維持するのが難しくなり、手数料を上げたり、新たに設けたりする必要があるのです。
また地方では人口減少とともに高齢化が進んでいますが、この影響で地方銀行の存続が危ぶまれている現状があります。
銀行の収益の大半を占めているのは、事業に使用する資金の貸付やローンによって得られる利息などの「資金収益」や銀行のサービスを利用する際に発生する「手数料」での収益です。
人口が減少して高齢化が進み、利用者数が減ってしまうと収益が激減してしまい、銀行のサービスを存続するのが難しくなります。
3. クラウドを上手く活用しきれていない
金融業界の企業が避けて通れないのが「クラウドの活用」です。
先ほども解説したとおりレガシーシステムが現役で稼働していることもあり、社内のシステムにおけるクラウドの活用も進められていない企業がたくさんあります。
例えば、顧客情報をクラウド管理することで、紙上にある情報をパソコンに打ち込む手間がなくなります。
電子サインを活用でき、入力ミスも自ずと減らせるため、業務負担の改善につながるでしょうの。
クラウド型のシステムへの移行は、サービス・業務の改善や拡張、コストの削減に欠かせない取り組みです。
4.顧客体験の変化に対応していない
インターネットやデジタル技術の発展にともない顧客体験が大きく変化していますが、残念ながら、金融機関はうまく対応できていません。
昨今は金融機関利用者が、新たなアプリやサービスに触れる機会が増えています。
洗練され使い勝手のいいサービスを利用していると、金融機関が今まで提供してきたサービスでは、なかなか満足できなくなっているというわけです。
いつでもどこでも金融機関のサービスが利用でき、QRコード決済なども日常的に利用している顧客にとって、これらが「利用できる」というだけでは最低限のサービスに過ぎません。
求められているのはさらに先の「洗練された使いやすさ」であり、叶えるためには抜本的なサービスの再設計が必要になります。
変界し続ける顧客体験に対応し、顧客のニーズにフィットしたサービス提供が求められています。
5.外部参入による競争の激化
今の金融業界は、異業種の会社が金融サービスに進出してきたことで、競争が非常に激化しています。
ここ日本では2001年の銀行法の改正以降、
などの異業種が続々と参入しています。
手数料が安い、ATMの営業時間が長いなど、その使い勝手のいいサービスは金融機関利用者にも好意的に受け入れられ、既存の銀行は変化を余儀なくされました。
また近年はいわゆる『GAFA』と呼ばれる世界規模の大企業も、金融業界への進出を始めています。
Appleはクレジットカードを既に発売し、GoogleとAmazonも、消費者向けの当座預金サービスの準備を進めている段階です。
彼らは膨大な個人のデータを持っているほか、それらを分析し、有効活用する方法も熟知しており、今後ますます競争が激化していく可能性があります。
銀行など金融業界におけるデジタルトランスフォーメーションの活用法
さまざまな課題を抱えている金融業界の問題を解決してくれる可能性を秘めているのが「デジタルトランスフォーメーション」です。
ここからは、金融業界でどのように活用していけばいいのかについて解説していきます。
活用法1. クラウドを活用した新しいシステムの開発と業務改善
銀行など金融業界がデジタルトランスフォーメーションの活用を検討する場合、取り組みたいのがクラウドの活用です。
口座をクラウドによって管理する、インターネットバンキングの導入は実施する必要があるでしょう。
銀行などの金融機関は平日の早い時間にしか店舗を利用できないという弱みがあるため、銀行でのさまざまな手続きや申込みをインターネットを通して完結できる仕組みが必要です。
さらに、顧客情報もクラウド管理をすすめることで、行員の業務改善も実施できます。
クラウドは導入しただけでは、活用できません。
導入したことを行員や顧客に広めて、積極的に使ってもらえるようにしましょう。
活用法2. RPAの活用による業務の効率化
収益性が下がることが懸念されている金融業界では、RPAの活用が必要です。
RPAは「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略称で、簡単な作業やルーティーンワークを自動化する取り組みです。
既存のサービスの改善を図り、より利便性を高めるなどの取り組みが必要になりますが、現状の金融業界の場合、日々の業務に追われて人材を回す余力がない企業がほとんどです。
RPAへの取り組みを推進すれば、業務の自動化によって既存の業務に割り振る人材と時間を削減できるようになり、サービスの改善や開発がおこなえます。
新たに作ったサービスは、より多くのユーザーを獲得することと並行して、既存のユーザーに継続して利用してもらうことも大切です。
活用法3. データの活用による金融の高度化
取得したデータを活用してサービスの向上や高度化が図れるようになるのも、デジタルトランスフォーメーションの推進によって得られるメリットの一つです。
金融業界の場合だと、融資業務へのデータの活用が代表的です。
例えば、ECサイトを運営している小売業の場合、蓄積した取引データをAIを使って分析し、融資の判断に活用する方法があります。
この取り組みにより、企業側としては融資に関わる業務の簡素化が実現でき、融資を受ける側にも、審査がスピーディーに実施されるメリットが得られます。
銀行など金融業界でデジタルトランスフォーメーションに成功した事例5選
DXへの取り組みが遅れてしまっている金融業界ですが、中には成果をあげている企業もあります。
ここからは、デジタルトランスフォーメーションの導入・活用に成功した金融業界の事例を5つ紹介していきます。
事例1. 肥後銀行
デジタルトランスフォーメーションを有効的に活用し、ユーザービリティーを向上させたのが、熊本の地方銀行「肥後銀行」です。
肥後銀行では、銀行内で接客をする従業員にタブレットを持たせ、口座開設や入金などの申し込み手続きを各自で実施するようにしました。
タブレットに入力したデータは、そのままシステム上に反映されるようになっているため入力業務や登録業務が不要になり、業務の効率化が図れます。
また、利用する側も申し込み用紙に何度も情報を入力する必要がなくなったため、手続きが簡素化し、利便性が大幅に向上しました。
【参考】FUJISOFT Technical Report「できることから始める金融デジタル化 ~ 窓口業務の「ゼロ線化」に取り組む肥後銀行様」
事例2. 三井住友銀行
AIの活用によって業務の効率化に成功したのが、メガバンクの「三井住友銀行」です。
三井住友銀行には年間3万件ものユーザーの声が寄せられており、分類や分析は10人の担当者が実施していました。
しかしあまりにも量が膨大で作業が追いついていなかったため、NECが独自開発したAIを導入することに。
これにより、内容の分析・分類・データベースへの登録まで自動化できるようになりました。
今では、多くの意見を把握できるため、業務やサービスの品質向上に向けたPDCAサイクルをいち早く回せています。
【参考】NEC「株式会社三井住友銀行様」
事例3.株式会社伊予銀行
銀行手続きを完結できるタブレットや、デジタル技術を駆使した新たなサービスで、ユーザー・バックオフィスの両方に大きなメリットを生み出したのが「伊予銀行」です。
伊予銀行のデジタルトランスフォーメーションのコンセプトは「D-H-D(デジタル・ヒューマン・デジタル)Bank」。
デジタル技術が得意なことと人が得意なことを使い分けることで、利便性や地域における企業価値の向上を目指す、というものです。
そのプロセスの中で、下記3つのサービスが開発されました。
- 店舗タブレットの「AGENT」
- デジタル完結の住宅ローン「HOME」
- 資金予測で無理な借入を防ぐ「SAFETY」
これらによって、ユーザーには利便性や安全性、銀行体験の向上を、バックオフィスには行員の事務作業の70〜80%削減に成功しています。
伊予銀行の取り組みは、日本の地方銀行が参考にすべき成功モデルとなるはずです。
【参考】株式会社伊予銀行「株式会社伊予銀行:本気の戦い – 将来のために今」
事例4.株式会社大和証券グループ本社
「株式会社大和証券グループ本社」は、デジタル技術活用の取り組みと実績を評価する「DX銘柄2020」に選定されている唯一の証券会社です。
さまざまな取り組みを実施していますが、ここでは2つの事例を紹介していきます。
一つ目が資産運用にツールを導入することにより、他社保有も含む全ての金融資産の運用サポートを可能にしたことです。
資産の種類ごとの金額などはもちろん、運用のモニタリングや、投資判断のサポートもしてくれるので、ユーザーの大きな手助けになっています。
二つ目が株式等を利用した福利厚生制度や株式報酬制度を導入している企業向けの、確認や手続きをWeb完結できる「制度商品WEBサービス」です。
手続きのデジタル化・ペーパーレス化・押印レス化に成功し、利便性を向上させています。
今後も、譲渡制限付株式の付与を可能にする仕組みや、グローバル企業の持株会の導入等、新たなサービスも検討されているようです。
【参考】DOORS「金融業でデジタル化が進展!「金融DX」の取り組み事例をご紹介」
事例5.Truist Financial Corporation(トゥルイスト)
「Truist Financial Corporation(トゥルイスト)」はアメリカに本社を置く銀行の持ち株会社です。
デジタルトランスフォーメーションのための資金を捻出するために、アメリカの地方銀行である「BB&T(Branch Banking and Trust Company)」が同じく地方銀行の「サントラスト・バンクス」を買収し、設立されました。
人の仕事とデジタル技術を適切な組み合わせでユーザーに提供することを目指し、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。
中でも最も効果をあげているのが、スマートフォンのオンラインバンクのアプリです。
さまざまな満足度調査で上位となり、その使いやすく洗練されたインターフェースは高く評価されています。
【参考】PwC「急加速する経済社会のDXが迫る新たな銀行像―デジタル戦略推進のための提携・再編も選択肢に」
まとめ:銀行など金融業界が抱える課題はデジタルトランスフォーメーションで解消できる
レガシーシステムへの依存が強くなってしまっていることで、他の業界よりもデジタルトランスフォーメーションへの取り組みが遅れてしまっている金融業界。
その影響でビジネスを存続するのが難しい企業もあるほど、金融業界の現状は深刻です。
しかし、
- レガシーシステムへの依存が強い
- 低所得化や人口減少による収益の減少
- クラウドを上手く活用しきれていない
- 顧客体験の変化に対応していない
- 外部参入による競争の激化
といった金融業界が抱える課題は、デジタルトランスフォーメーションによって解消できる可能性を秘めています。
レガシーシステムからの脱却はビジネスを変革させる大きな取り組みになるため、慎重になったり躊躇してしまったりしますが、これからの時代を生き残っていくためには避けて通れません。
金融業界でのDXの推進には、今回紹介した5つの事例のように成功している企業もたくさんあるため、ぜひ前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
とはいえ、「デジタル技術を導入したいが、何から始めたらいいか分からない」という方もいるはずです。
テクロ株式会社では、デジタルトランスフォーメーション支援もしております。
DX基礎やすぐに始められる施策について解説する「DX解説本」も作成しておりますので、ぜひご活用ください。