教育デジタルトランスフォーメーションの課題や活用事例について解説
デジタル技術を導入して活用し、普段の生活やビジネスに変革をもたらす「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。
そのデジタルトランスフォーメーションは、さまざまな業界で導入が進められています。
ただ、日本はデジタルトランスフォーメーションへの取り組みが遅れているのが現状。
子どもたちを教える教育の現場も、導入が進んでいない業界の1つです。
この記事では、教育の現場におけるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みについて紹介していきます。
現在、教育の現場が抱えている課題に触れつつ、それらの課題を解決するためのデジタルトランスフォーメーションの活用法について紹介していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
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目次
教育現場でのDX推進が求められる背景
まずは、教育現場でのDX推進が求められている理由を3つ紹介します。
オンライン授業の需要の増加
新型コロナウイルスの感染症が拡大して以降、オンライン授業の需要が増加しています。
オンライン授業とは、Zoomなどのビデオ会議ツールや動画を使って行う授業のことです。
インターネット環境とビデオ会議ツールに対応した端末があれば自宅から授業を受けられるので、感染症対策として有効です。
また、感染症対策以外にも、以下のメリットがあります。
- 台風や大雨などで学校に行けない場合でも授業ができる
- 移動時間の短縮により、時間を有効活用できる
- オンデマンド授業であれば、理解度に応じた視聴や1度習った内容を復習するなど、自分のペースで学習できる
他にも、塾や予備校では、以下の点もメリットとして挙げられます。
- 時間と場所を選ばずに質の高い授業を受けられる
- 離島や過疎地域などの子どもにも、質の高い教育を届けられる
社会全体のデジタル化の加速
現在は、社会全体でデジタル化が進んでいます。
価値観や生活様式、ビジネスの在り方が大きく変わろうとしています。
そこで重要になるのが、「ITリテラシー」です。
ITリテラシーとは、パソコンやスマートフォンなどのIT機器や、インターネットやSNSなどの情報ツールを理解し、使いこなす能力のことです。
これからの社会で生き抜くためには必須の力といわれており、カリキュラムに組み込む教育機関も増加中。
例えば、小学校ではプログラミング教育が必修化されています。
また、VRやAIなどを教育に取り入れる高校も増えています。
デジタル活用が当たり前になっているからこそ、学校教育によってITリテララシーの基礎を身につけておくことが重要です。
ITリテラシーについて知識を深めたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:ITリテラシーとは?DXにおける重要性と身に着ける方法を解説
個人に最適化された教育観への変化
21世紀に入ってから、「画一的な詰め込み教育よりも、1人ひとりに合った教育が重要である」という教育観に変化してきました。
この個人に最適化された教育を実現するために、文部科学省は「GIGAスクール構想」を掲げています。
GIGAスクール構想とは、公立小中学校において、生徒1人ひとりに端末が1台ずつ与えられ個人に合わせた教育を受けられる環境を作る施策です。
特徴は以下の3点です。
- 1人ひとりのレベルやペースに合った学習ができる
- 学習データを蓄積でき、理解度の高い生徒のノウハウを共有できる
- 各生徒の興味関心を把握でき、それをさらに伸ばすための指導に役立てられる
GIGAスクール構想が実現すれば、多様な価値が求められる現代社会において、自身の強みを存分に発揮できる人材として活躍する人が増えることが期待されています。
文部科学省が推進するDX推進プラン
文部科学省では、教育現場におけるDX推進プランのガイドラインを公表しています。
示されているのは、初等中等教育と高等教育の2つです。
それぞれの内容を紹介します。
初等中等教育のDXプラン
初等中等教育のDXプランでは、以下の2点が示されています。
- 土台となるICT環境の整備
- GIGAスクール構想の加速化
まずは、教育基盤となるICT環境の整備を進めます。
環境が整ったら、先端技術を用いて教育ビッグデータを蓄積し、分析。
そして、生徒1人ひとりに合った教育の実現を目指します。
参考:⽂部科学省デジタル化推進本部「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」
高等教育のDXプラン
高等教育のDXプランは、文部科学省が提示する「AI戦略2019」の中に明記されています。
具体的な内容は以下の通りです。
- すべての高等学校卒業生が「数理・データサイエンス・AI」の基礎的なリテラシーを習得する
- AIを用いて専門分野を深めたり、課題解決ができる人材を、年間約25万人(大学・高専卒業者の約50%)育成する
- 世界で活躍する先鋭的な人材を発掘するとともに、能力をさらに伸ばす環境整備を進める
まとめると、高等教育では、AI人材の裾野を広げ、その中からトップクラスの人材を見つけることを目指しています。
参考:内閣府制作統括官(科学技術・イノベーション担当)「AI戦略2019【概要】(内閣府制作統括官)」
教育現場のDX推進の課題
冒頭で、「教育現場ではDXの導入が遅れている」と述べました。
メリットの多い教育現場のDX推進ですが、課題が多いのが現実です。
具体的なものを3つ紹介します。
課題1.インフラ整備の遅れ
最も大きな課題は、インフラ整備の遅れです。
GIGAスクール構想実現のためには、生徒1人につき1台の端末が必要です。
しかし、端末を揃えるには生徒・学校の両方に金銭的な負担が生じます。
使用していく中で故障や破損、経年による買い替えなども発生します。
また、学校には端末を使うためのクラウド環境も必要です。
しかし、クラウド環境は1度整備すれば良いものではなく、定期的なメンテナンスが必要です。
逆にいえば、インフラ整備を積極的に進めることで、教育現場のDX推進を大きく進められるでしょう。
課題2.セキュリティ対策
世界的にDXが進んでいますが、同時にそれを悪用したサイバー犯罪も増加しています。
みなさんの中にも、企業の情報漏洩のニュースを聞いたことがある方は多いでしょう。
そのため、今後は生徒の個人情報などを管理していくうえで、セキュリティ対策が大きな課題となります。
現在はサイバー犯罪の被害の多くは企業ですが、今後教育DXが進んでいくと、学校もそのターゲットになり得るでしょう。
生徒たちの個人情報などの重要情報を守るためにも、レベルの高いセキュリティ対策が求められます。
なお、DX時代に求められるセキュリティ対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
ぜひ参考にしてください。
関連記事:DX時代に求められるセキュリティ対策とは?導入のポイントを解説
課題3.教員の知識不足
生徒に指導している教員は、DX推進のエキスパートではありません。
多くの教育現場では、教員の知識や経験が不足しているのが現状です。
そのため、
- 外部人材を活用する
- ITに強い教員が苦手な教員にノウハウを共有する
- 教員向けのセミナーを受講する
といった工夫が求められています。
教育の現場におけるデジタルトランスフォーメーションの活用法
次に、教育の現場でのデジタルトランスフォーメーションの活用方法について紹介していきます。
活用法1. オンライン授業
1つ目に紹介する活用法は、オンライン授業です。
オンライン授業には、「オンライン授業の需要の増加」で紹介したメリット以外にも、不登校の生徒への対応に関してもメリットがあります。
現在、少子高齢化で子どもの数が減っているにもかかわらず、不登校の生徒は年々増えているのが現状です。
文部科学省の調査によると、令和3年度の不登校生徒の数は9年連続で増加し、過去最多となりました。
参考:文部科学省「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導場の諸課題に関する調査結果の概要」
これまでは自宅や別室での指導などによって不登校の生徒の学習をサポートしていました。
しかし、どうしても教育の質が低くなってしまい、現場の負担も大きくなります。
不登校の生徒には、オンラインに切り替えて学び続けてもらうことで、「学校に行きたい」
「学校で学びたい」など、学習に対する意欲の向上にもつながります。
そのためオンライン授業には、不登校の生徒の増加に歯止めをかることが期待されています。
活用法2.デジタル教材
デジタル教材とは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどで利用できる教材のことです。
メリットは以下の通りです。
- 教科書やノートを端末にまとめられるので荷物量を軽減できる
- 端末があれば授業を受けられるため、忘れ物防止に役立つ
- 進捗管理ができるものであれば、生徒の学習状況をチェックしやすい
- 普段からデジタル技術に触れるため、デジタル人材の育成につなげられる
また、従来の紙媒体ではできなかった、動画や音声を使った教育もできます。
インターネットと組み合わせることもできるため、多角的な教育の実現に貢献します。
活用法3. ICT教育
ICT教育は、インターネットなどの通信技術や、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスを活用した教育の手法を指す言葉です。
これまで紹介してきたオンライン授業やデジタル教材などもICT教育の1つですが、それだけではありません。
例えば、その場で答えがわかるようなアプリや正解数に応じて特典がもらえるようなアプリを導入すれば、生徒はゲーム感覚で楽しく学習に取り組めます。
ICT教育は最新の教育の方法と言えますが、普段から最新のデジタルテクノロジーに触れることでデジタル人材の育成もできます。
活用法4. AIの導入
生徒1人ひとりに合った教育を実現するためには、AIの導入が不可欠です。
各生徒の学習データを蓄積してAIに分析させれば、苦手な箇所や習熟度合を把握することが可能です。
そして、AI自身が課題克服に向けて問題を作ったり、教科書の該当ページを提案したりできます。
また、蓄積されたデータとその分析は、成績管理や進路指導にも活かせるでしょう。
活用法5.CBT化
CBTとは、コンピューターを使った試験方式のことです。
CBT 化が進むと
- 採点業務の自動化
- 採点結果の集計の自動化
などが実現し、教員の負担が大きく軽減されます。
教育現場でDXを推進するメリット
ここで、教育現場でDXを推進するメリットを5つ紹介します。
オンラインとオフライン教育を掛け合わせられる
DXが進むと、オンラインとオフライン教育を掛け合わせる「ハイブリッド教育」が可能になります。
その結果、学校に来られない生徒に対しても同じ水準の学習環境を提供できます。
不登校の生徒はもちろん、入院などで通学が難しい生徒のサポートも可能。
台風や大雨で通学が危険な場合も、授業を実施できます。
また、録画した授業を配信するオンデマンド授業であれば、自分のペースに合わせた学習もできます。
業務の効率化ができる
教育現場の長時間労働は大きな問題となっています。
DXが推進されれば、授業を含む教員の業務全般の効率化ができると期待されています。
例えば
- プリントはPCで作成してデータで配布する
- 宿題の提出はデータで実施する
- 教員間の情報共有はクラウドを活用する
- CBTで学習管理をする
- 欠席・遅刻の連絡はメールなどで実施する
といったことが可能です。
そして、教員は本来の教育に集中できるでしょう。
生徒のデータを管理して活用できる
DXで重要なことは、集めたデータを分析して、課題解決を図ることです。
教育現場においても、例外ではありません。
例えば、生徒の学習データを蓄積すれば、生徒1人ひとりの理解度や苦手なポイントを可視化できます。
さらに、理解度の高い生徒の学習プロセスを分析して、理解度の低い生徒に共有し、学習スタイルの改善を図ることも可能です。
また、全国の学習データを大学などの研究機関で収集・分析すれば、新しい学習法や教育法の研究・開発に役立つことも期待されています。
データをうまく活用することで、教育の質を高めることにつながるのです。
効率的に学習できる
デジタル端末を使うことで、学習の効率化が進みます。
例えば、デジタル教科書を使うと
- 紙の教科書と同じ情報量を端末上で見られる
- 動画や音声と紐付けて、より理解を促す学習が可能
といったメリットがあります。
また、「AIドリル」などのデジタル教材を使えば、生徒1人ひとりの理解度に応じて学習内容を最適化することが可能です。
アナログ学習では実現できない、さまざまな学習効果を得られるでしょう。
ITリテラシーが育まれる
子どもの頃からIT機器に触れることで、ITリテラシーが育まれることもメリットです。
現代は多くの情報で溢れています。
その中から適切な情報を取捨選択し、活用する力は非常に重要です。
もはやビジネスの場面だけでなく、生活全般で必要なスキルといっても良いでしょう。
小さい頃からITリテラシーを身につけておけば、将来をより豊かにできるでしょう。
教育現場でDXを活用した事例3つ
それでは、実際に教育現場でDXを活用した事例を見てみましょう。
岩手県立花巻北高等学校
引用:岩手県立花巻北高等学校
岩手県立花巻北高等学校では、ICTツールを活用した学び方改革に取り組んでいます。
テーマは「自らの生活をデザインする行為が、将来の自分をデザインする力になる」です。
生徒たちは入学してすぐ、卒業時の自分をイメージしながら、高校生活3年間のロードマップを作成します。
このロードマップをもとに、ICTツールを活用して日々の学習計画を作ります。
そして、1日の学習計画を毎朝入力し、1日の終わりには実績を入力。
学習記録は担任がチェックし、支援が必要であれば必要な支援を行うようにしています。
このようにして、変化の早い時代を生き抜くために、日々の学習を通じて、「人生をデザインする力」の習得に力を入れています。
参考:Classi「創立90周年の伝統校が取り組む「学び方改革」「自らをデザインする力」を生徒に育む」
利尻富士町教育委員会
日本最北端の北海道稚内からフェリーで約2時間の場所にある離島、利尻島。
地理的なハンデを抱えつつも、AI型デジタル教材を活用して、1人ひとりの生徒に高い水準の教育を提供しています。
具体的には、
- 定着確認:宿題を配信し、実施時間や正答率、苦手ポイントなどをチェックする
- 自主学習:定期テストの範囲表にデジタル教材の単元番号を記載し、学習を促す
- フィードバック:前の授業で説明不足だったり、理解が不十分と感じた内容を配信して、生徒にやってきてもらう
- 評価:データを使って、主体的に学習に取り組む態度を評価する
といった場面で活用しています。
その結果、各種テストの成績が向上したり、教員の時間に余裕ができ、思考力や判断力などを身につけさせる授業を行えるようになりました。
このように、教育DXが進めば、離島や山間部といった都市から離れた場所でも質の高い教育を提供できるといえるでしょう。
参考:ICT教育ニュース「離島のハンデを「Qubena」とICTか強づえ乗り越える新しい学び/利尻富士町教育委員会」
Schoo Swing
引用:Schoo Swing
Schoo Swingは、データを使って学習状況を可視化することで、1人ひとりに合った教育を実現する学習プラットフォームです。
特徴は以下の3つです。
- オンライン・オフラインの学習体験を組み合わせたハイブリッド教育を1つのツールで実現できる
- コメント、リアクション、クイズなどの機能で授業参加へのハードルを下げ、双方向コミュニケーションを活発化できる
- 生徒1人ひとりのデータが可視化されるため、データに基づいて教育活動の検証・分析ができる
教員の負担を減らしつつ、学びの質を向上することが期待されています。
参考:Schoo Swing「Schoo Swing」
教育の現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する際の注意点
教育の現場でデジタルトランスフォーメーションを推進していく場合、デジタル技術に関する教育をおこなわなくてはいけません。
デジタル技術はより良い教育を提供してくれますが、トラブルにもつながってしまう可能性のある技術でもあります。
インターネットに接続できるようになることで危険なWebサイトにアクセスできるようになり、知らないうちに犯罪に巻き込まれてしまう可能性もあります。
デジタルトランスフォーメーションを推進する場合は、デジタルテクノロジーの良くない部分から生徒たちを守ってあげなくてはいけません。
インターネットやデジタルデバイスの取り扱いに関する指導をして、子どもたちに最低限のネットリテラシーを身につけさせるようにしましょう。
まとめ:教育の現場が抱える課題はデジタルトランスフォーメーションで解決できる
日本の教育の現場はさまざまな課題を抱えています。
こういった課題に対しては教育の現場はもちろん国も本腰を入れて取り組んでいますが、いまだに改善できていません。
しかし、これらの課題はデジタルトランスフォーメーション(DX)の活用によって解決できる可能性のあるものばかりです。
デジタル教材によって1人ひとりに合った教育が実現でき、AIの導入によって教職員の負担の軽減もできます。
また、普段からデジタルテクノロジーに触れさせることで、デジタル人材の育成の課題も解決できるようになるでしょう。
課題を感じている教育の現場の方は、ぜひデジタルトランスフォーメーションの推進を検討されてみてはいかがでしょうか?
弊社・テクロ株式会社より「DX解説本」を無料配布中です。
ぜひご活用ください。