デジタルトランスフォーメーションを自治体が成功させるポイントとは?
経済産業省が発表した「DXレポート」をきっかけに、国内でもデジタルトランスフォーメーションが注目されるようになりました。
最近では、自治体でもDXの必要性が認識されるようになり、各地で検証が進められています。
しかし、依然としてDXの取り組み状況は、自治体によって差があります。
自治体ごとに抱えている課題が異なるため、一概に比較することはできませんが、「どのようにDXを進めるべきか迷っている」というケースも多いです。
この記事では、デジタルトランスフォーメーションを成功させるポイントについて解説します。
DXの推進を検討中の方は、ぜひご覧ください。
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目次
自治体におけるデジタルトランスフォーメーション
まずは、デジタルトランスフォーメーションとは、どのような概念なのかをご紹介しておきましょう。
また、DXを自治体の中でどのように位置付けるべきなのかについても解説します。
デジタルトランスフォーメーションとは?
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。
ITが浸透することで、人々の生活が良い方向へ変化することを指します。
自治体にとってのデジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術を活用して行政サービスや組織の体制を改革することです。
DXはデジタライゼーションと混同されることもありますが、それぞれ意味が異なります。
デジタライゼーションは、特定の業務や作業をデジタル化すること指す言葉です。
一方のデジタルトランスフォーメーションは、業務のデジタル化はもちろん、組織や運営方針を含む広範な変革を指します。
自治体におけるDXの位置づけ
自治体におけるデジタルトランスフォーメーションの位置付けは、地方ごとに異なります。
これは自治体によって抱えている課題が異なるためです。
自治体のDXの方向性を考える際には、以下の2点を考慮する必要があります。
住民の視点
自治体は公的なサービスを運営・提供する機関です。
自治体のデジタルトランスフォーメーションと言うと、内部の変革と捉えられがちですが、住民サービスの視点が不可欠です。
組織の内部ばかりに目を向けていると視野が狭くなり、公的サービスの提供という本来の役割を見失ってしまう恐れも。
自治体のDXを成功させるには、内部と外部にある両方の視点から課題を洗い出すことが重要です。
全体の最適化
自治体におけるデジタルトランスフォーメーションでは、全体の最適化を目指す必要があります。
個々のオペレーションの最適化も大切ですが、それだけでは不十分です。
先にご紹介したように業務のデジタル化は、単なるデジタライゼーションでしかありません。
自治体の中で横断的にデータを活用できるように、全体に最適化されたシステムを構築することが重要です。
そのため、システムの構築にあたっては、ベンダーに丸投げするのではなく、自治体が主導でシステムの要件を定義する必要があります。
自治体にデジタルトランスフォーメーションが必要な理由
なぜ今、自治体にデジタルフォーメーションが必要と言われているのか、その理由を解説します。
地方にある公共団体の職員数の減少
自治体のデジタルフォーメーションが必要と言われている理由のひとつは、地方の公共団体で務めている職員の数が減少していることが挙げられます。
平成6年以降、地方にある公共団体の職員数は減少傾向にあります。
平成6年の地方にある公共団体の総職員数は約3,300万人でしたが、令和2年には約2,800万人にまで減少(出典:総務省 地方公共団体の総職員数)。
平成に入って以降、自治体は将来的な人口が減ることで伴う、税収の減少に対応するために、人件費の抑制に取り組んできました。
職員数が年々少なくなっている一方で、業務の負担は大きくなっているため、行政サービスの効率的な運営が求められています。
少ない人員で行政サービスを提供するためには、業務プロセスや組織の体制の見直しが不可欠です。
そのため、自治体におけるデジタルトランスフォーメーション導入が急務となっています。
紙ベースの業務によるロス
2つ目の理由として、紙ベースの業務によるロスが挙げられます。
企業の間では、業務のデジタル化・ペーパーレス化が進められていますが、行政では未だに紙が基本です。
紙ベースのオペレーションでは手作業が多くなるため、タスクの処理に時間が掛かる上、人為的なミスも発生しやすいです。
さらに、最近では新型コロナウイルスの影響で、対面での手続きも困難な状況になっています。
上記のような背景から、行政の手続きのデジタル化が求められているのです。
経済産業省による自治体のデジタルトランスフォーメーション推進
経済産業省は、市民に近いところで実質的なサービスを提供する自治体のデジタル対応が不可欠と考えています。
そこで、令和2年から「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」を立ち上げ、自治体のデジタルトランスフォーメーションを推進しています。
全国の自治体で必要となる業務については、政府がアプリケーション開発や標準の仕様を策定し、自治体にも提供する予定です。
共通の行政サービスはクラウドベースで構築し、政府と自治体が共通のシステムを利用できるよう整備を進める方針が示されています。
自治体によるデジタルトランスフォーメーションの事例
ここからは、自治体によるデジタルトランスフォーメーションの実例をご紹介していきます。
事例1.東京都三鷹市
東京都三鷹市は、2020年に「未来をつくる三鷹デジタル社会ビジョン」を策定して、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。
これまで三鷹市では、情報化の計画を策定した後に各種の施策を進めるという方法をとっていました。
しかし、近年のデジタル技術の急速な発展による状況の変化に対応できなくなってきたため、 現状を鑑みた上で、今すべきことに注力する方針をとることに。
DXの一環として、チャットボットやRPAを導入して、業務の効率化に取り組んでいます。
中でも保育所の入所についての事務は、60%近く効率化できたとしています。
【参考】SAP Concur 【イベントレポート】デジタルで行政と地域をつなぐ〜事例から考察する時代ベストプラクティス〜
事例2.福岡県行橋市
福岡県行橋市は、行政が保有しているデータを活用して学習できるアプリの開発を検討しています。
教育の現場へデジタル技術を導入することで、業務の効率化や教育への満足度の向上が期待できるとしています。
避難所やハザードマップなどの、地域に関するデータも活用できる仕組みを目指す予定です。
【参考】経済産業省 自治体デジタルトランスフォーメーションに関する取り組みについて
事例3.宮城県仙台市
宮城県仙台市では、行政の事務におけるRPAやAIの有効性の検証に取り組んでいます。
15種類の業務にRPAを導入した結果、2,977時間掛かっていた作業時間が1,168時間にまで短縮。
システム登録や集計など、定型の業務の効率化に有効であることが示されました。
また、業務によっては90%以上効率化できたとしています。
【参考】仙台市 仙台市の業務におけるRPAなどの利活用について
事例4.茨城県笠間市
茨城県笠間市では、第3次笠間市情報化基本計画を策定して、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。
計画の中で笠間市は、行政の手続きを原則オンライン化にすることを目標にしています。
加えて、手続きの簡略化や行政サービスのオンライン化にも着手する予定です。
申請や入札をオンライン化するほか、オンライン決済の導入も検討されています。
【参考】笠間市 笠間市デジタルトランスフォーメーション計画【概要】
自治体によるデジタルトランスフォーメーションを成功させるポイント
自治体によるデジタルトランスフォーメーションを成功させるには、いくつかポイントを押さえる必要があります。
ここからは、DXの成功に必要な4つのポイントについて解説します。
強力なリーダーシップ
デジタルトランスフォーメーションを成功させるには、強力なリーダーシップが不可欠です。
先述の通りDXには、業務の効率化だけではなく、組織の改革も含まれます。
そのため、一部の部署ではなく、全体で取り組む必要があります。
組織のトップが主導して進めなければ、頓挫してしまう可能性が高いです。
場合によっては職員から反発があることも。
職員だけでは、デジタルトランスフォーメーションの導入は難しいため、組織をまとめるリーダー自身が改革を推し進める必要があります。
組織の方針にDX推進を盛り込む
2つ目のポイントは、組織の方針にDX推進を盛り込むことです。
デジタルトランスフォーメーションを成功させるには、全体で必要性を共有しておかなければなりません。
そのためには、組織のトップがビジョンを提示する必要があります。
デジタルトランスフォーメーションによってどのような課題を解決するのか、何を目指すのかを明確にしておきましょう。
自治体でDXに取り組める体制を整備
全体でデジタルトランスフォーメーションに取り組める体制の整備も、DX成功に欠かせないポイントです。
組織の方針としてDX推進を掲げたとしても、実行できる能力がなければ意味がありません。
DX専門の部署の設置や各部署にDX担当者を配置する必要があります。
加えて、担当者に必要な権限を与えておくことも重要です。
IT人材の確保・育成
デジタルトランスフォーメーションを成功させるには、ITに強い人材を確保・育成する必要があります。
経済産業省は「DXレポート」の中で、DXを妨げる要因のひとつとして、基幹システムのブラックボックス化を指摘しています。
ブラックボックス化を避けるには、自治体の手でシステムの要件を定義しなければなりません。
そのためには、自治体の業務とIT技術の両方に精通した人材の確保・育成が欠かせません。
IT人材の確保や育成についてもっと詳しく知りたい方は、「DX人材とは?代表的な6つの業種と求められる7つのスキルについて解説」を御覧ください。
まとめ:自治台のデジタルトランスフォーメーションは急務
自治体がデジタルトランスフォーメーション成功させるポイントについて解説しました。
DXを成功させるには、デジタルトランスフォーメーションの必要性を自治体の中で共有して、体制を整える必要があります。
組織の改革そのものと言って良いほどになるため、組織のトップの覚悟も求められるでしょう。
一方で、ITに精通した人材が不足している自治体も多いですよね。
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