中国で日本人が起業するには?海外起業の最前線を聞く【monobank・吉川真人さんインタビューPart1】
グローバル化が進み、海外起業のハードルもどんどん下がっている昨今。
アジア圏、なかでも経済発展が著しく毎年数多くのスタートアップが誕生している中国は、世界が注目する巨大市場です。
しかし中国にかかわらず、海外での起業は日本と勝手が違い、右も左もわからず不安が多いもの。
そこで今回は、今特にホットな地域である深圳で起業を果たした「monobankChina」の吉川真人さんに、中国での起業事情最前線をインタビューさせていただきました。
Part1の本記事では、中国での起業の経緯と各都市の特性、そして現地パートナーの探し方についてお話をうかがいます。
※当インタビューは2020年10月に実施したものです。
今回お話を聞いたのはこの方
吉川真人(Makoto Yoshikawa)
monobankChina CMO
京都出身。北京留学の経験を持ち、2020年8月に深圳ファンドと組みAI鑑定とOMOのリユーステックの日中合資スタートアップ「monobankChina」を共同創業。
市場規模に魅力を感じ中国へ。「よそ者」が活躍する深圳でビジネスをスタート
ー(天野)まず、吉川さんが中国で起業することになったきっかけを教えていただけますか?
2011年に北京に留学に行ったんですが、そのときに「いつか絶対中国で起業したい」と思いました。
2017年くらいから深圳に「起業するならここだな」と目をつけていて、実際に動き始めたのが2019年です。
まずミニプログラム(中国のメッセンジャーアプリ「WeChat」上で動くプログラム)をつくろうと思ったんですが、そのためには中国で登記する必要があると言われたので、中国に渡りました。
あとで調べたら、実際は登記しなくてもできたんですが(笑)。
当初はインバウンド事業をやろうと思っていたんですが、今やっているのはブランド品の買取事業です。
ー(天野)私の事業家の知り合いのなかには、「中国は未知数すぎる」「痛い目に遭ったから二度とやらない」という方も結構いらっしゃって。
そういった、海外、中国だからこその難しさも実際あると思うんですが、それでも「中国で起業したい」と思われた理由は何ですか?
これはよく言われることですが、やはり「人口の多さ」が大きな魅力でした。
中国の人口は去年14億に達して、日本の約11倍です。
マーケットの大きさが桁違いなので、仮に中国国内で取れたパイが少なかったとしても、日本でマジョリティを取るよりも利が大きいことだってありえます。
ただ、その分競合が多すぎるというデメリットもあるので、失敗する確率も高いです。
これは、起業するのが日本人であっても中国人であっても同じですね。
それから、「騙される騙されない」という話は、もちろん自分もめちゃくちゃびびっていました(笑)。
ただ、これは深圳に行ってから気づいたことですが、深圳で事業を上手くやっている人たちは、元々の深圳人というより、福建省のちょっと下の広東省からや、潮州から来た人が多いんです。
40年前の「改革開放」政策を受けて、深圳にビジネスチャンスを求めてやって来た人たちですね。
深圳にいるなかで、そういった人たちは比較的人を騙す確率が低いという印象を受けました。
もちろん深圳にも騙す人はいるんですが、他の都市より騙す人の割合が比較的少ないのかな、と。
個人的には、北京とかでは絶対起業したくないです(笑)
数多くのスタートアップが集まる深圳の街
ー(天野)なるほど。中国のスタートアップは北京と深圳がアツイというイメージがあったんですが、北京と深圳でも結構違うものなんですね。
まぁ「北京で絶対起業したくない」というのは半ば冗談ですが(笑)
同じスタートアップが盛り上がる都市でも、北京と深圳で最も大きく違うのは大学ですね。
北京には北京大学、清華大学、中国人民大学、ほかにも多数の名門大学が集まっています。
その点、深圳大学は中国ではいわゆるFランと言われていて。
深圳にも北京大学の分校はあるんですが、院生のみで学部生はいません。
つまり、学力が優秀な人材は基本的には北京、もしくは上海に集まるんです。
上海の場合は地元民の方が多くなっていますが。
それから、海亀(ハイグイ)と呼ばれる人たちの存在も大きいですね。
海外留学や海外就労経験を持つ起業家を指す呼び名ですが、有名な人だと百度(バイドゥ:中国最大の検索エンジン)のCEOも海亀として知られています。
現在40代くらいで、中国政府のしがらみも比較的少ないなかで、割と開放的に海外経験を積んだ人たちです。
世界のトレンドを柔軟に取り入れようという人が多い印象ですね。
そんな海亀の約30%が北京に流れると言われています。
あとは上海、そしてアリババのお膝元である杭州です。
北京の場合は都市から資金援助が受けられるというのも、スタートアップが盛り上がる大きな理由の一つですね。
ー(天野)スピリッツの深圳、優秀な頭脳と海亀が集まる北京、アリババのお膝元杭州といった感じで、各都市で色合いが異なるんですね。
その通りです。
ちなみに、上海もすごいですよ。
ユニコーン企業の多さで比較すると、今年調べたときに深圳が21社で上海が40社くらいだったので、深圳よりずっと多いんです。
はっきりとした理由はわからないんですが、やはり上海にも海亀が流れているということと、復旦大学、交通大学などの名門大学が集まっていて、学生時代から起業する人や、頭脳優秀な人材を囲い込んでいる企業が多いのかなと推測しています。
信頼するまでに2ヶ月。運の要素が大きい現地でのパートナー探し
ー(天野)起業にあたって最も悩ましいことの一つが、現地でのパートナー探しだと思います。海外では特に「本当に信用できる人か」の判断が難しいと思いますが、吉川さんはどのようにパートナーを見つけられたんでしょうか。
そこに関しては本当におっしゃる通りで、難しいです。
私の場合はかなり運が良かったと思っています。
まず、Weibo(中国最大規模のSNSサービス)で「こういう事業を始めるので、投資家の方お話ししましょう」と投稿しました。
そうしたら何人かから連絡が来たんですが、もう全くもって怪しい人しか来なかったんです(笑)
たとえば、「俺のWeChatにこんなに投資会社があるから」って、個人情報を見せてきたり。
この人たちとは絶対無理だと思いました。
そんななかで、一人だけTwitterで連絡をくれた人がいて、それが今の事業パートナーです。
中国語で、「深圳で一緒に事業をやってくれる日本のパートナーを探しています。よかったら一度お会いしませんか」と。
私は元々自分でやりたい事業があると言ったら、「じゃあまずそれをプレゼンしていいから」と言ってくれました。
それで深圳のスターバックスで実際に会うことになったんです。
まず、自分が考えていたインバウンド事業の話をしたら、「それはマーケットがないからやめとけ」と笑顔で言われて(笑)
その人はファンドの人間だったので、どのくらいマーケットがあるのか、どのくらいで利回りが成り立つかといった具体的な部分を、プロの観点からしっかりとフィードバックしてくれました。
次にその人の本題に入って、それが「ブランド品の買取事業をやりたい」という話でした。
中国にはまだこの分野のプレイヤー企業がいないので、これから伸びていくと予想していると。
そしてこの分野は、ヒト・モノ・情報すべて中国よりも日本に集まっているので、そこを中国に引っ張ってきてもらって、一緒にやりたいと言われました。
とはいえ、そのときはまだ「怪しいな」としか思えなくて(笑)
最終的に信頼するまでは2ヶ月くらいかかりました。
まず、スターバックスで最初に会った際、トイレに立ったときにあえてパソコンを席に置いていったんです。
「パソコンをパクったりせず、普通に待っていてくれるかチェックしよう」と。
そうしたら普通に待っていてくれたので、とりあえず「悪い人ではない」と思いました。
二回目は一緒に飲みに行って、三回目でご家族を紹介してもらいました。
ここまできてやっと、この人は大丈夫だな、この人は本気だなと思えたんです。
だから、パートナー探しは正直、運の要素がかなり大きいです。
日本人だと、お金の話になるとすごくテンションが上がってしまう人と、逆にものすごく疑う人がいると思うんですが、やはりテンション上がってしまう人は気をつけた方がいいと思います。
冷静に、時間をかけて吟味した方がいいですね。
日本人なら、すでに現地に通じている日本人を経由して探すというのも良い方法かもしれません。
そこで費用が発生する可能性もありますが、そこは安全保障料、必要経費として。
ー(天野)なるほど。ところで、日本人をはじめとする外国人の中国起業で、最近のトレンドだと感じているものは何かありますか?
スタートアップ界隈ではないですが、広州の淘金ホテルの近くに、貿易ビジネスをやっている外国人がたくさん集まっているみたいですね。
アフリカ系の方とかもよく見かけます。
日本人だと、深圳で実際に起業している人はまだ少なくて、これはトレンドかどうかはわからないですが、貿易と越境ECをやっている人が多いです。
深圳の電気街で製品を買い付けて、それをOEM商品としてAmazonで販売する日本人ですね。
スマートフォンのケース、ガラスフィルム、充電器…それからスマートフォンリング。
スマートフォンリングなんかは1個数円でつくれちゃいますから、かなり利益が出る仕組みです。
ー(天野)ただ、たとえばケーブルとかの製品は、コンテナ単位で運ぶなら別ですが、小ロットだと輸送料で利益が出なくなっちゃうような気もするのですが。
これは中国人の場合ですが、日本に会社をつくっておいて、そこが契約しているコンテナ船を使って大量に送るんです。
コンテナにいろいろな商品を詰められるだけ詰めて。
それで日本国内の倉庫に保管して、発注があればそこから発送します。
この方法だと1個あたりの送料はそんなに高くなりません。
深圳の電気街って、日本人にはパッと見は観光地っぽく、かつ消費者向けに見えますが、実際はBtoBビジネスで成り立っていると思いますね。
実際、アリババドットコムのサイトに、ロット数いくつで一個あたりいくらかという情報が全部載っています。
とはいえ、いろいろな商品がありすぎるので、電気街を実際に周って商品を比較するのだと思います。
Part2では、中国マーケティング事情の最前線を、日本との違いを中心にうかがっています。
こちらも是非ご覧ください!
中国のマーケティング最前線〜日本との違いとは?【monobank・吉川真人さんインタビューPart2】
monobankChina CMO 吉川真人 https://twitter.com/mako_63