中国のマーケティング最前線〜日本との違いとは?【monobank・吉川真人さんインタビューPart2】 | テクロ株式会社
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中国のマーケティング最前線〜日本との違いとは?【monobank・吉川真人さんインタビューPart2】

グローバル化が進み、海外起業のハードルもどんどん下がっている昨今。
アジア圏、なかでも経済発展が著しく毎年数多くのスタートアップが誕生している中国は、世界が注目する巨大市場です。

しかし中国にかかわらず、海外での起業は日本と勝手が違い、右も左もわからず不安が多いもの。
そこで今回は、今特にホットな地域である深圳で起業を果たした「monobankChina」の吉川真人さんに、中国での起業事情最前線をインタビューさせていただきました。

Part2の本記事では、独自の発展を遂げている中国のマーケット事情について、日本との違いを中心にお話をうかがいます。

Part1はこちらをチェックしてみてください。
中国で日本人が起業するには?海外起業の最前線を聞く【monobank・吉川真人さんインタビューPart1】

※当インタビューは2020年10月に実施したものです。

今回お話を聞いたのはこの方

吉川真人(Makoto Yoshikawa)
monobankChina CMO

京都出身。北京留学の経験を持ち、2020年8月に深圳ファンドと組みAI鑑定とOMOのリユーステックの日中合資スタートアップ「monobankChina」を共同創業。

オウンドメディアのSEOが重視されない中国。集客のメインはSNS

ー(天野)今、中国はある種保護貿易のような状況に置かれているのかなと思っています。
日本が戦後トヨタなどの機械産業にやったことと同じで、中国の場合はインターネット産業でグレート・ファイアウォールをつくって保護している。
この10〜15年は、googleやamazonといったグローバルサービスと同じものを国内で育てるということを、政策として重視してきましたよね。
そのうえで、アメリカと全く同じことをそのまま中国に持ってくるだけではなく、独自のマーケティングを発展させているように感じます。
日本と比較したときに、中国の、特にBtoCマーケティングでの違いはどんなところが大きいのでしょうか。

中国のマーケティングでは、そもそもSEOがあまり重視されていません
ホームページはとりあえずつくるけど、そこからの流入はあまり求めていなくて、完全にモバイルファーストですね。

かつ、SNSがメインになります。
日本だととりあえずGoogleで検索するという人が多いと思いますが、中国では百度で検索するよりも小紅書(RED:SNS型ECアプリ)とか抖音(ドウイン:中国版TikTok)で調べる人が多いんです。

リアル店舗の場合は大衆点評(たいしゅうてんぴょう:中国最大の口コミ投稿サイト)ですね。

だから企業側も、スタートはホームページをつくってSEOをやることではなく、WeChatの公式アカウントをつくることになります。
日本のLINE公式アカウント(旧 LINE@)のような感じですね。

その後、クリエイターを入れてショートムービーをつくり、抖音を基軸にして、20個くらいあるムービーアプリにボンボン投下していく。
そこからの集客を狙っていく流れになります。

ー(天野)日本でいうところの、インスタグラムのようなプラットフォームがいっぱいあるということでしょうか?

いっぱいありますが、最もよく使われているのが小紅書(RED)で、小紅書(RED)のDAU(1日あたりのアクティブユーザー数)は1億人と言われています。
ユーザーの7割が女性で、投稿も女性寄りのものが多いです。

私も毎日見ていますが、地域のボタン、私の場合は深圳のボタンをタップすると、近くの飲食店や観光地の投稿がバーっと表示されます。
1投稿につき10枚くらい写真があるんですが、飲食店関連の投稿だと、1枚目は美女の写真が使われていることがとても多いです。

広告塔として惹きが強いということでしょうね。
飲食店側が彼らにお金を出して来てもらって、自撮り付きで投稿してもらっているのだと思います。

レビューも文字数がしっかりあって、味、価格、雰囲気、駅からの行き方など、かなり細かく丁寧に書かれています。

おそらく店側がレビューのテンプレートを渡しているのだと思いますが、メインのキャッチコピーなどはしっかりクリエイターを入れてつくっていて、消費者に見限られないよう上手く工夫されています。

中国の消費者も目が肥えているので、明らかに「これはお金で買ったレビューだな」というのは気づかれますし、全く見てもらえなくなります。
コメント数、いいね数、お気に入りに入れられた数なども見て判断されていますね。

こういったユーザーの検索動向に合わせて、企業側も消費者に実際に来店してもらって投稿してもらうということをしています。
弊社も今それに取り組んでいるところです。

ー(天野)地域や業種にもよると思いますが、小紅書(RED)や大衆点評の運用をゼロから始めて、大体どれくらいで集客効果が出るものなんでしょうか。

弊社の場合は実店舗をオープンしてまだ2ヶ月ということもあって、SNSからの集客はまだ多くないです。

そもそも、中国のマーケティングでは3つのフェーズがあると言われています。
まず第一フェーズが「种草(ジュンサオ)」と言って、これは種を蒔くという意味です。

具体的には、まず存在を認知をさせる段階ということですね。
SNSの運用はこの第一フェーズにあたります。

インフルエンサーを使って一気に伸ばす戦略もあれば、友達など周りの人に投稿してもらいながら徐々に広げていくケースもあります。
基本的には認知フェーズなので、ここでは実際に集客につながればラッキーくらいの感じです。

第二フェーズは「长草(ジャンサオ)」、草を伸ばしていく、ナーチャリングしていくという意味です。
第一フェーズで興味を持ってくれた人に対して、例えば一対一でオンラインカスタマーサポートを提供するなど、個別のサービスに展開していきます。

そして第三フェーズの「拔草(バーサオ)」で、ここまで興味を駆り立ててきた相手を最終的に刈り取る。
この3フェーズが中国マーケティングの基本概念です。

よく「ライブコマースをやれば売れるんですか?」と聞かれるんですが、正直、いきなりやったところでまず結果は出ません。
第一フェーズの種まき、つまり認知をさせないと意味がないというのが、中国でよく言われることです。

ちなみに大衆点評に関しては、有料プランを利用すると広告配信ができるので、認知と同時に集客効果も得られます。
これは日本のリスティング広告と同じ仕組みで、ユーザーが検索したキーワードに応じて表示されて、クリックされたら費用が発生するかたちです。

ー(天野)日本の場合はほぼみんながYahooかGoogleを使っていて、どちらかの広告には当たる可能性が高いという状況ですが、中国の場合は、言うなれば日本のスマートニュースみたいなアプリを入れて、そこの広告流入が主流ということでしょうか。

そうですね。
ニュースサイトだと「今日头条」(ジンリートウティアオ)网易新闻」(ネットイース)腾讯新闻」(テンセント)の3つがメジャーで、そのなかでも「今日头条」が一番人気と言われています。

「今日头条」だと専用のインフィード広告と、DSP広告もあります。
私の場合、消費者金融の広告がよく出てきますね。

90年代前後生まれというで、不動産や車の購入、結婚など、ライフステージ上お金がかかることを見越して表示設定されているのだと思います。
あとは、脱毛や肌トラブルなど、コンプレックス系の広告も多いです。

このあたりの広告運用は日本と似ていますね。
ただ、中国の方がよりあからさまかもしれません(笑)

実店舗運営はホームページがなくても困らない? 大衆点評でコンバージョンを図りWeChat公式アカウントでタッチポイントを増やす

ー(天野)お話をうかがっていて、媒体の選定が非常に重要そうに感じたんですが、選定基準はどのように決めておられるんでしょうか。

弊社の場合は、ユーザー層が集客したい層と最も近い大衆点評に一番コストをかけています。
そもそもユーザーが鑑定買取をしてもらいたいと思って検索しているケースが多く、元々コンバージョンにつながりやすい状態なので、そこにお金をかけるのがセオリーとして正しいと考えているんですね。

百度の広告はまだ運用していません。
同業他社もたくさん使っていることと、お金のばら撒きに近くなってしまうというのが理由です。

広告にお金を使うということは、それだけユーザーに還元される額、つまり買取額が少なくなってしまうので、信用を得る上でもあえてまだやっていないということですね。

ただ、スタッフからは早くやれと言われています(笑)
この辺りのバランスはなかなか難しいですね。

いずれにせよ、中国で実店舗を持つのであれば、大衆点評の運用から始めるのがセオリーだと思います。
ホームページをつくるより、そっちが先の方がいいですね。

ー(天野)極端な話、実店舗でホームページがなくて大衆点評だけで成り立つこともあり得ますか?

実際、弊社はほぼそんな状態です。
ホームページも一応あるんですが、百度が「無料でつくります」と言ってくれたので、お任せしてつくってもらいました。
それがグチャグチャなものだったので今つくり直していますが(笑)

でも、だからといって別に困っていないんです。
大衆点評だけだと、消費者が大衆点評上でチケットを買って来店するか、もしくは電話予約をして来店するかたちになります。
あとは会社のWeChatにお客さんのアカウントをもらって、そこで常に連絡を取れる状態にします。

そのほかにも、WeChat公式アカウントで週に1回程度情報提供をしています。
さらにWeChat公式アカウントにはミニプログラムを連動できるので、そこから自分たちのミニプログラムに誘導することもできます。

ホームページがなくてもここまでできるので、あまり困ることがないんですね。
日本だと、ホームページがなくてLINE公式アカウントだけで連絡が来たら、「この人、怪しいネットワークビジネスか何かじゃないか」という感じになりそうですが(笑)

ー(天野)日本のLINE公式アカウントだと、コンテンツ垂れ流しの状態が多くて、消費者との接点にするという本来の使い方がまだあまりできていないような気がします。

ただ、中国のWeChat公式アカウントも、基本的には一方通行ではあります。
記事を読んでもらって、ミニプログラムに飛んでもらって、さらにそこからカスタマーサポートに飛んでもらってやっとインタラクティブになるので、なかなか遠いです。

なのでどちらかというと、タッチポイントを増やしてあげるという意味合いが強いですね。

弊社は実店舗をオープンしてまだ2ヶ月ということもあり、運用もまだまだ試行錯誤しているところです。
たとえば、中国人の国民性として、電話番号を知られるのを嫌がるということがよく言われます。
営業電話がかかってくるのを嫌がっているということですね。

弊社の今の運用だと、ミニプログラムの認証で電話番号が抜かれるので、「じゃあミニプログラムは登録しない」というケースがとても多いんです。
ミニプログラムはすでに運用しているんですが、この初回登録のところでつまずいているので、これから改善していく予定です。

海外→国内が一般的だったブランド品流通を、中国国内に切り替えていく

ー(天野)日本だと買取サービスはかなり一般的で、ブランド品に限らずスマートフォン、本、ゲームなど、ほとんどの人が一生に一度は何かしら売っているんじゃないかと思うくらいですよね。
中国の場合は、個人がモノを「売る」という感覚はどれくらい一般的なものなんでしょうか。

ブランド品に関しては、まさにこれからという感じですね。
コロナ禍によってモノを売る人が増えたとも言われていて、今ちょうど追い風です。

モノを売ること自体に関しては、スマートフォンだったら買取の大きいプレイヤー企業がすでに二つあって、二社ともおそらく上場すると言われています。
彼らは「OtoOプラットフォーム」と言っていて、オンラインからオフラインに誘導するマーケティング手法を意味しています。
ユーザーデータをオンラインでもオフラインでも取得し、ユーザーの「好きなタイミング」「好きな場所で」買い取れるようにするニューリテールというビジネスです。
参考:Alibaba JAPAN

他には、今中国で最もホットで競合が多いのが自動車買取です。
日本のグーネットやカーセンサーのような中古車買取企業が乱立している状態ですね。

もちろん、本当の富裕層は中古車は買わないんですが、中間層になると「別に中古でいい」「新品なんて買ってられない」という人も多いので、中古車が売れると言われています。

パソコンもそうですね。
深圳の電気街なんかはまさに中古品ばかりです。
洋服も、日本のエアークローゼットのようなしくみは、中国の方が先にできていますね。

ー(天野)ブランド品がまだまだこれからというのが意外でした。日本人もそうですが、中国人もブランド品が好きなイメージがあります。

今、世界のブランド品購入者の3割が中国人ですからね。
10年〜10数年後には50%になると言われています。

世界の半分は中国人が買うという状況になるわけです。
マーケットが伸びていく以上、中国国内に物が確実に増えて、中古に流れる物の絶対量も増えていきます。

中国人はもともと、フランスやイタリア、そして日本まで行ってブランド品を買っていたわけですが、コロナ禍で国を出れなくなっているので、しょうがなく中古でもいいから買う状況になっているとも言われていますね。

もちろん、海外から輸送してもらって買うこともできますが、同じくコロナの影響でそもそもの生産コストが上がっていて、かつ輸送コストも上がっているので、「それなら中国国内で買う」という傾向が予想されています。

ー(天野)逆に、今まで国内で買っていなかった理由、海外まで行って買っていた理由は何なんでしょうか。

シンプルに安いからですね。
外国で買った方が免税も受けられるので。

日本の場合は、ソーシャルバイヤーという、そもそもビジネス目的で購入する人たちが、大黒屋のようなショップに行ってブランド品を大量に買っていったりしていました。

ソーシャルバイヤーだと、日本に買いに行っている間にライブコマースをやったり、写真を見せて欲しい人を先に集め、購入者を決めてから買い取るという手法も多かったですね。

ー(天野)面白いですね。
旅行しながら写真を撮って、投稿しておくだけで買い手が決まっているような感じでしょうか。

その通りです。
ただ、2019年に中国の電子商取引法が改定されたので、こういった売り方にも税金が発生するようになりました。
払わなかったら罰金が課せられます。

2019年から中国人の爆買いが減ったと言われていますが、この電子商取引法の改定が大きな要因の一つだと思います。
今までやっていた人たちは、税金がかからなかったからこそ儲かるしくみだったんです。

ー(天野)なるほど。
それでは御社としては、ブランド品の流通を海外から中国国内へ切り替えていくということですね。

そうですね。
ただ、日本の大黒屋のようなかたちではなく、弊社はCtoBtoB、つまり消費者にはあまり売らない想定です。

回転率を高くするために、基本的には同業者に売っていきます。
さらに、全国の業者が集まれるオークションのプラットフォームをつくって、自分たちでオークションもやっていく予定です。

並行して、ブランド品の鑑定結果を公式文書として発行する企業と提携し、鑑定士の育成・教育事業も進めていきます。
ずっと買取だけでやっていくのも大変ですから(笑)

ー (天野)本日は大変貴重なお話をありがとうございました!


中国での起業経緯、各都市の特性、現地パートナーの探し方などをうかがったPart1も是非ご覧ください!
中国で日本人が起業するには?海外起業の最前線を聞く【monobank・吉川真人さんインタビューPart1】


monobankChina CMO 吉川真人 https://twitter.com/mako_63

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