金融業界のDXのゆくえとは?課題と解決策を事例と併せて分かりやすく解説
現在、様々な業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。
しかし、金融業界は他の業界に比べてDXの推進が遅れていると言われています。
それは一体なぜなのでしょうか。
また、金融業界がDXで解決できる課題とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
この記事では金融業界のデジタルトランスフォーメーションにおける課題と解決策を、11の好事例とともに解説します。
また、DXを検討中の方は、無料配布中の「DX解説本」も併せてご確認ください。
目次
金融業界がDXを進める意味
デジタルトランスフォーメーションとは、直訳すると「デジタルによる変容」という意味であり、デジタル技術の導入や活用によって既存のビジネスを変革させる取り組みを指します。
デジタルトランスフォーメーションについては、弊社の別記事「デジタルトランスフォーメーションとは?注目される理由を徹底解説」で詳しくお話ししています。
デジタルトランスフォーメーションについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
金融業界において、デジタルトランスフォーメーションを推進するべき理由は大きく3つあります。
1.レガシーシステムのリスクから脱却する
金融業界のシステムの中には、ここ数十年使い続けており、レガシー化しているシステムも少なくありません。
各業界でIT導入が始まった当初、多くの金融企業が莫大なコストを投じてITベンダーと共に最新の自社システムを開発しました。
技術革新のスピードから、一般的にシステムの寿命は30年と言われています。
しかし、金融業界はその複雑な業務特性からシステム刷新を容易に行うことができませんでした。
そのため古いシステムを使い続けながら、サービス変更が発生するたびシステム改修を重ねたのです。
都市銀行を中心に、銀行同士の経営統廃合も繰り返されました。
業務要件を叶えるため、開発会社も仕様も全く異なる、互いの銀行の巨大なシステムを繋ぎ合わせるといった複雑な対応も行われて来ました。
その結果、システムは誰も仕様の全容を理解できないほどに複雑化し、開発を担当していた人材も定年退職していなくなってしまったのです。
レガシーシステムを使い続けると、影響確認を正確に行うことができず予期せぬ障害が発生したり、サービスを正常に提供することができない事態に陥ったりするリスクがあります。
デジタルトランスフォーメーションを推進し、レガシーシステムから脱却することは、現行のサービスを安定的に提供し続けるためにも必要なことなのです。
2.システムの拡張性を広げ、企業として進化する
あまりに複雑化したレガシーシステムは、拡張性を失い、システムの改修も難しくなります。
このようにシステムが拡張性を失うと、新しい金融商品を考案してもすぐにシステム反映できず、競合他社に後れを取るリスクがあります。
逆に言えば、デジタルトランスフォーメーションを推進することで新サービスのリリースをスピーディに行えるような拡張性を担保できれば、企業としての競争力も格段に上がるでしょう。
また、信用第一である金融サービスはミスをしないよう、証跡を都度取得したり、複数人のチェックを入れるかたちで業務フローを組んでいます。
こうした複雑な行内業務を、デジタルトランスフォーメーションによって簡易化・工数削減できれば、新たに創出できた時間を、新サービスの開発など、更なる業績アップに活かすことができるでしょう。
3. 手数料に代わる収益を創出する
銀行などの金融機関はさまざまな方法で収益を得ていますが、特に大きな割合を占めているのが、顧客から徴収する手数料です。
しかし、少子高齢化により、この手数料で収益をあげるビジネスモデルは限界を迎えつつあります。
最近では手数料を見直したり、無料が当たり前だった口座の維持に手数料を設けたりする銀行も出てきていますよね。
今後も非正規雇用の増加により、手数料の収益は将来的に減少していくことが予想されるでしょう。(参考:総務省「家計調査報告」)
金融業界は、従来の手数料に代わる収益を模索するべき局面に立っています。
しかし、営業店に来店する必要があったり、対面で依頼したりする必要があるようなサービスは、生活にデジタルが浸透した現代人にとって利便性を感じられにくくなっています。
2023年、日本のスマートフォン普及率は96.3%に到達しました(モバイル社会研究所)。
デジタルトランスフォーメーションに取り組むにあたり、ユーザー提供サービスにおいてはスマートフォンでの利用を意識した設計が必要です。
銀行など金融業界が抱える4つの課題
金融業界がデジタルトランスフォーメーションを推進するべき理由が明らかになりましたね。
それでもなぜ、金融業界では取り組みが遅れてしまっているのでしょうか。
金融業界の現状と課題を、もう少し詳しく見てきましょう。
1. コストの問題
金融システムの新規開発には、数千億円といった莫大なコストがかかります。
ゆえに金融業界は、レガシーシステムへの依存から抜け出せずにいる企業が多いのです。
一方で、最近ではキャッシュレス決済などを提供するIT企業が、金融業界にどんどん参入してきています。
金融業界は、既存のビジネスモデルのままでは衰退していく未来しかありません。
また、レガシーシステムの運用コストもそれなりに高額です。
デジタルトランスフォーメーションは必要な投資ととらえ、企業のこれからを見据えて一刻も早くレガシーシステムから脱却し、既存のビジネスモデルを変革させる必要があります。
好事例として、後ほど「システム移行ではなく、ゼロベースからデジタル銀行を立ち上げることを選択した事例」もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
2. 外部サービスの信頼性
法人や個人の資産情報を取り扱っている金融業界は、個人情報の漏洩が決して許されない業界です。
もちろん、他の業界でも情報漏洩は許されないのですが、信用第一の金融業界には「情報を資産として守る」という最重要の使命があるからこそ、高額なコストを投じてまで自社システムを構築し、外部ネットワークから遮断された環境で情報を守ってきたのです。
パッケージシステムを導入するパートナー企業も、基本的には取引実績がある大手企業からしか選定しない社風です。
今でこそクラウドサービスは一般に普及していますが、登場した当初は「外部のサーバーで大切な情報を管理する」という仕組み自体が、情報漏洩リスクの観点で、過去の金融業界の常識では受け入れられないサービスでした。
しかし、最近ではクラウドサービスのセキュリティ面も非常に高度なレベルまで構築され、大手企業も様々なクラウドサービスを導入しています。
外部ベンダーがパッケージシステムとして提供するASPも、今では非常に安価な運用コストで簡単に導入できるようになりました。
外部サービスの導入は、サービス・業務の改善や拡張、コスト削減の面でも欠かせない取り組みだと言えるでしょう。
3.顧客ニーズの変化
昨今、インターネットやデジタル技術の発展によって顧客体験が大きく変化しました。
例えば、銀行口座の新規開設は、従来であれば営業店の窓口へ行き、本人確認の書類と印鑑がなければできませんでした。
最近では、オンラインで口座開設の手続きが全て完結するアプリが開発され、オンラインで完結できるサービスが増えつつあります。
しかし、「オンラインで利用できる」というだけでは最低限のサービスに過ぎません。
ユーザーは普段から、洗練され使い勝手のいいサービスを利用しています。
求められているのは、さらに先の「洗練された使いやすさ」であり、これを叶えるためには、サービスの抜本的な再設計が必要なのです。
しかし、残念ながら全ての金融機関がうまく顧客ニーズの変化に追いつけているわけではありません。
そもそも金融業界は、金融という高度な専門知識を有する人材の集団。
デジタルネイティブ世代が好むUIを知り尽くして提案できる人材や、最先端の技術を駆使してサービス設計できる人材が、社内にいないのが現状です。
こうした壁を乗り越えるには、優れた外部のパートナー企業と協業する必要があります。
後ほどご紹介する事例では、ITコンサルティング会社のノウハウを活かして新規サービスを開発した事例も紹介しますね。
4.外部参入による競争の激化
最近の金融業界は、異業種の会社が金融サービスに進出できるようになったため競争が非常に激化しています。
ここ日本では2001年の銀行法の改正以降、
などの異業種が続々と参入しています。
「手数料が安い」「ATMの営業時間が長い」など、従来の金融サービスには無かった利便性が人々に支持され、利用者を伸ばしていますね。
また近年はいわゆる『GAFA』と呼ばれる世界規模の大企業も、金融業界への進出を始めています。
Appleはクレジットカードを既に発売し、GoogleとAmazonも、消費者向けの当座預金サービスの準備を進めている段階です。
彼らは膨大なユーザーデータを保有しており、それらを分析し、有効活用する方法も熟知しているので、今後は益々競争が激化していくでしょう。
金融業界でも、AIなどを活用したデータの分析活用を急いでいます。
この後の事例では、データ活用によって新たなサービスを生み出した事例もご紹介しますよ。
銀行など金融業界がDXを進めるメリット
金融業界が様々な課題を抱えながらも、デジタルトランスフォーメーションを推進するべき状況であることが分かりましたね。
ここで、改めて金融業界がデジタルトランスフォーメーションに取り組む3つのメリットをまとめました。
1.市場の変化に対応できるようになる
レガシーシステムからの脱却は、業務の拡張性を担保するために必要なプロセスです。
デジタルトランスフォーメーションによって、市場の変化に素早く対応したサービス・システムを展開することが可能になるでしょう。
また、金融業界はトップダウンの社風でもあります。
物事をひとつ決定するにしても、多くの決裁者の判断を経る組織です。
それは、ひとえに金融資産を預かる企業として、決して判断を誤ってはならないという厳しさから来る体制でもあるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションによって決裁プロセスを効率化することができれば、業務の保全性を担保しながら、より早く、優れたサービスを世の中へリリースすることができるようになります。
2.既存部門の業績アップ
金融業界は、手数料に代わる新たな収益を見つける必要があると前述しました。
では、どんな方法があるのかというと、例えば、融資もデジタルトランスフォーメーションによる業績アップが見込める部門です。
財務実績に依存した審査基準では、実績を持たないスタートアップ企業への融資判断が難しく、取りこぼしてしまう案件になりがちです。
しかし、データ分析ツールを導入して与信情報を多角的に評価・分析することができるようになれば、売上実績や企業に対するユーザーの評価も参照するなどし、財務実績に頼り切らない融資の判断が可能になるでしょう。
将来性が見込めるスタートアップ企業に融資判断ができれば、今までは獲得できなかった顧客を獲得し、金融業界として社会に新たな価値提供をすることが可能です。
後ほど紹介する好事例にもヒントがたくさんありますので、ぜひご覧ください。
3.新たなサービスの創出
デジタルトランスフォーメーションに取り組む最大メリットは、新たなサービスの創出、つまり、世の中に新しい価値を生み出すことです。
スマートフォンが普及した現在、一連の金融サービスがオンラインで完結するアプリの開発など、ユーザーの環境に適応したサービスが求められています。
キャッシュレス決済や、ネット銀行の誕生といった新しい顧客体験は、金融業界にインパクトをもたらしました。
金融業界へ新規参入した民間企業が、市場で消費者のシェアを獲得している要因は、金融サービスのデジタルトランスフォーメーションによって生まれた新しいサービスが評価された結果といえます。
一方で、既存の金融企業には、これまで培ってきた取引先との関係性や、ユーザーデータをサービス設計に活かせるという優位性があります。
デジタルトランスフォーメーションは、従来のシステムでは叶えられなかったことをかたちにできるチャンスでもあるのです。
銀行などの金融業界が実施すべきDX
「デジタルトランスフォーメーション」とひとことに言っても、具体的にはどのような方法があるのでしょうか?
ここからは、金融業界で実施すべき具体的なデジタルトランスフォーメーションの施策についてご紹介しますね。
クラウドを活用した新しいシステムの開発と業務改善
まず検討したいのが、クラウドサービスの活用です。
クラウドサービスとは、外部企業のサーバー上に構築されたシステムを、契約企業がインターネット経由で利用できる仕組みです。
クラウドサービスのメリットは、新規サービスを開始するために新しいシステムを利用したいと思ったら、スピーディーに、かつ初期投資を抑えて運用開始できるということ。
もし自社でシステムを開発するとなると多額なコストと時間がかかりますが、他社が提供するクラウドサービスを利用すると、大抵は月額数百円〜数万円程度ですぐに利用開始することができます。
考慮するべき点としては、クラウドサービスの利用費が定常的に発生するので、長期的に利用していれば、自社開発した場合のコストをいつかは上回る可能性があるという点でしょう。
「小さく始めて、市場チャンスがあるかどうかを確かめたい」といったビジネスアイデアがある場合は、クラウドサービスを使って始めることをお勧めします。
世の中には、実にありとあらゆるクラウドサービスがあるので「こんなことできるシステムないかな?」と思ったら、まずは調べてみると案外見つかりますよ。
RPAの活用による業務の効率化
RPAは「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略称。
簡単な作業やルーティーンワークをロボットで自動化する仕組みです。
導入イメージとしては、普段業務を行っているパソコンでRPAを起動し、ルーティンワークを行うと、その動きをRPAが記憶し、再現してくれるというものです。
日次の集計作業や月末の締め作業など、工数削減により人員に余力ができれば、その時間でサービスの改善・開発ができますよね。
RPAの導入により工数の大幅削減に成功した金融業界の事例もあります。
好事例を後述していますので、ぜひご覧ください。
AIやIoTデータ活用によるサービス開発
顧客や取引先から取得したデータを活用してサービスを開発することも、金融業界が推進するべきデジタルトランスフォーメーション施策です。
最近ではIoT(Internet of Things:モノがインターネット経由で通信すること)によって様々な端末や機器からあらゆる情報を収集することが可能になりました。
また、それらの膨大なデータをAI(人工知能)によって解析することが簡単にできるようになりました。
データ活用によって、企業の生産性における課題を抽出したり、サービスのパーソナライズ化を実現したりすることが可能になります。
例えばアメリカでは、融資において多くのデータ活用実績があります。
また、保険業界では自動車のIoT情報を活用して保険料率を決定したり、契約者の健康診断の結果や生活情報から保険料を調整したりするといった事例もありますよ。
膨大なデータやIoTデータをAIで分析・活用することで、ターゲットに合わせた最適な提案を行うことができるでしょう。
生体認証の導入によるセキュリティ強化
生体認証とは、指紋や顔のパーツと言った身体情報で本人確認を行う技術。
スマートフォンの顔認証や、指紋認証によるロック解除機能も生体認証ですよ。
都市銀行を中心とする金融機関では、既に生体認証をサービスに導入しています。
例えば契約者がATMで本人確認を行う際、事前に生体認証を申請登録しておくと、ATMの機器に指を置いて静脈情報を確認することで、生体認証の登録がない契約者よりも多くの金額を取引することができます。
従来の方法だと、銀行のICカードと暗証番号さえあればATMからお金を引き出すことができてしまうためなりすまし・詐欺被害のリスクがありました。
そのリスクヘッジとして、大抵の金融機関がATMでの取引金額に制約を設けています。
生体認証を活用すれば、本人確認の確度性が上がるので、より多くの取引を許容することが可能に。
生体認証は、ユーザーと金融機関の双方にとってメリットがある技術なのです。
オープンAPIを活用した他社との協業
オープンAPI(Application Programming Interface)とは、企業がデータを外部企業に安全に連携するための仕組み。
事前に契約した外部企業に、金融機関のシステムへのアクセス仕様をアプリで公開することで、金融機関が保有するユーザー情報の一部を、外部企業に安全に受け渡すことができます。
例えば、家計簿アプリが銀行口座と連携してリアルタイムで口座情報を確認できたりするのは、各銀行がオープンAPIを公開しており、そのAPIをアプリ開発企業が活用しているからなのです。
金融業界がオープンAPIを提供すれば、多くの外部企業と新たな取り組みができる可能性が広がるでしょう。
暗号資産のビジネス活用
暗号資産とは、お札やコインといった実態を持たない仮想通貨のことで、ブロックチェーンというセキュリティが強固な技術基盤の上で実現されています。
暗号資産のメリットは、政治や経済に価値が左右されないこと、そして海外との取引を従来の仕組みよりも早く安く実現できることです。
円やドルといった通貨は、国の管理下にある「法定通貨」。
そのため、内政が不安定になると通貨の信用が下がり、市場に大量に売り出されて価値が暴落する(インフレーション)といったリスクがあるのです。
しかし、暗号資産は法定通貨ではなく、暗号資産交換業を認可された事業者が取引を仲介している仮想通貨なので、政治情勢などに左右されないのが強みですよ。
また、法定通貨で国際取引を行うには、世界中の銀行間で決済を行うためのシステム(SWIFT)を介して取引する方法が一般的で、取引にどうしても数日を要します。
暗号資産は、このSWIFTを介さず、新たに構築されたネットワークで取引を行うので、早く、安く国際取引を行うことができるのです。
暗号資産の取引量は今後、増えていくことが想定されます。
都市銀行は、既に暗号資産交換業者と提携しており、顧客が口座から暗号資産取引を行える体制を整えていますよ。
銀行など金融業界でデジタルトランスフォーメーションに成功した事例11選
ここからは、金融業界でデジタルトランスフォーメーションに成功した11の事例を紹介します。
事例1. 肥後銀行 タブレット導入で業務効率化
デジタルトランスフォーメーションを有効的に活用し、ユーザービリティを向上させたのが、熊本の地方銀行「肥後銀行」です。
肥後銀行では、銀行内で接客をする従業員にタブレットを持たせ、口座開設や入金などの申し込み手続きを各自で実施する方法へ業務見直しを行いました。
タブレットに入力したデータは、そのままシステム上に反映されるようになっているため、後で登録情報を入力・登録する作業工程が不要になり、業務の効率化を実現。
また、ユーザーも申し込み用紙に情報を手書きする際に同じ情報を何度も書く必要がなくなったため、手続きを簡素化することができ、利便性が大幅に向上しました。
【参考】FUJISOFT Technical Report「できることから始める金融デジタル化 ~ 窓口業務の「ゼロ線化」に取り組む肥後銀行様」
事例2. 三井住友銀行 AI活用でユーザーの声を分析
AIの活用によって業務の効率化に成功したのが、メガバンクの「三井住友銀行」です。
三井住友銀行には年間3万件ものユーザーの声が寄せられており、その分類や分析を10人の担当者が実施していました。
しかし、データがあまりに膨大で分析作業が追いついていなかったため、NECが独自開発したAIを導入。
これにより、データの分析・分類・データベースへの登録までを自動化できるようになりました。
これによりユーザーからの意見を把握することができるようになり、業務・サービス品質向上のPDCAサイクルをスピーディに回せるようになりました。
【参考】NEC「NEC、三井住友銀行に「お客さまの声」を自動分析するシステムを納入」
事例3.伊予銀行 アクセンチュアと共同でDXを実現
「伊予銀行」は、ITコンサルティング会社のアクセンチュアと共同で、デジタルトランスフォーメーションのコンセプト「D-H-D(デジタル・ヒューマン・デジタル)Bank」を立ち上げました。
「デジタル技術が得意なことと、人が得意なことを使い分けることで利便性や地域における企業価値の向上を目指す」という方針です。
そのコンセプトの元、下記3つのサービスを開発しました。
- 店舗タブレットの「AGENT」
- デジタル完結の住宅ローン「HOME」
- 資金予測で無理な借入を防ぐ「SAFETY」
これらによって、ユーザーには利便性や安全性、銀行体験の向上を実現。
バックオフィスでは、行員の事務作業の70〜80%削減に成功しています。
伊予銀行の取り組みは、日本の地方銀行が参考にすべき成功モデルと言えるでしょう。
【参考】株式会社伊予銀行「株式会社伊予銀行:本気の戦い – 将来のために今」
事例4.大和証券 デジタルツールで資産運用をサポート
「株式会社大和証券グループ本社」は、デジタル技術活用の取り組みと実績を評価する「DX銘柄2020」に選定されている唯一の証券会社です。
さまざまな取り組みを実施していますが、ここでは2つの事例を紹介しますね。
一つ目は、資産運用にツールを導入することで、他社保有も含む全ての金融資産の運用サポートを可能にしたことです。
資産の種類ごとの金額などはもちろん、運用のモニタリングや、投資判断のサポートもしてくれるので、ユーザーの大きな手助けになっています。
二つ目は、株式等を利用した福利厚生制度や株式報酬制度を導入している企業向けの、確認や手続きをWeb完結できる「制度商品WEBサービス」です。
これにより手続きのデジタル化・ペーパーレス化・押印レス化に成功し、利便性を向上させています。
今後も、譲渡制限付株式の付与を可能にする仕組みや、グローバル企業の持株会の導入等、新たなサービスも検討されていますよ。
【参考】DOORS「金融業でデジタル化が進展!「金融DX」の取り組み事例をご紹介」
事例5.トゥルイスト 洗練されたユーザーインターフェースのバンクアプリ
「Truist Financial Corporation(トゥルイスト)」はアメリカに本社を置く銀行の持ち株会社です。
デジタルトランスフォーメーションのための資金を捻出するために、アメリカの地方銀行である「BB&T(Branch Banking and Trust Company)」が、同じく地方銀行の「サントラスト・バンクス」を買収して設立されました。
トゥルイストは、人の仕事とデジタル技術を適切な組み合わせでユーザーに提供することを目指してデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。
中でも最も効果をあげているのが、スマートフォンアプリのオンラインバンクです。
さまざまな満足度調査で上位となり、その使いやすく洗練されたインターフェースは高く評価されています。
【参考】PwC「急加速する経済社会のDXが迫る新たな銀行像―デジタル戦略推進のための提携・再編も選択肢に」
事例6.鹿児島銀行のスマホ決済アプリ「Payどん」
2019年、鹿児島市内に完全キャッシュレス商業施設「よかど鹿児島」がオープン。
まだキャッシュレス決済が浸透していない地方都市において、最先端技術を駆使した施設ということで話題になりました。
この施設の開業に合わせて、鹿児島銀行が独自開発したキャッシュレス決済サービスが「Payどん」です。
「地域振興に活用できるサービスを開発したい」という理念から、独自開発に踏み切りました。
しかし、鹿児島銀行が最初に直面した問題は「アプリ開発の経験がほとんどなかった」こと。
ベンダー伴走のもと、サービスを運用・内製できる体制を構築しました。
商業施設の開業当初、Payどんの使い方をサポートするデスクを設置したところ、意外にも50~60代のお客様から「私もキャッシュレス決済を使ってみたい」という大きな反響があったそうです。
【参考】Monsterlab「独自のキャッシュレス決済サービスで地域振興を目指す」
事例7.BIPROGY株式会社(旧:日本ユニシス)の外国送金システム「SurFIN®」
外国送金はマネーロンダリング(犯罪資金洗浄)などの防止のため、金融機関の窓口で行う必要があります。
資金の正当性を確認するため、本人確認書類、送金先の情報、資金捻出元の口座など様々な確認が必要で、金融機関にとっては工数がかかる作業でもあります。
外国送金の業務支援サービスとしてBIPROGYが開発した「SurFIN」は、送金者が窓口へ来店する前にオンラインで申込書を作成でき、窓口での対応時間を大幅短縮できるサポートシステム。
データ連携により行内事務のペーパーレス化、省力化を実現します。
【参考】BIPROGY「外国送金受付ワークフロー SurFIN®」
事例8.ふくおかフィナンシャルグループのデジタル銀行「みんなの銀行」
「地銀の雄」の異名を持つふくおかフィナンシャルグループは、福岡銀行・熊本銀行・十八親和銀行・福岡中央銀行の地方銀行4行のほか、傘下に子会社23社を持ちます。
多くの都市銀行が、既存の勘定基盤システムと連携したネットバンクをリリースする一方、ふくおかフィナンシャルグループは2019年、国内で初めてグーグル・クラウド・ジャパンのパブリッククラウドを活用したゼロベースのデジタル銀行を構築。
「みんなの銀行」をリリースしました。
「みんなの銀行」は、郵送や来店などデジタルネイティブ世代にとっての「煩わしさ」を徹底排除。
口座開設にカードも通帳もいらない、全取引がオンラインで完結するサービスとなっています。
預貯金、送金、入出金など一連のサービスを利用できるだけでなく、その洗練されたUIがデジタルネイティブ世代から支持を受けていますよ。
2023年5月時点の口座開設数は67万口座、15~39歳のデジタルネイティブ世代で71%の利用があるサービスへ成長しています。
【参考】HIP「新常識に挑む『みんなの銀行』の戦略。ネット銀行と異なるデジタルバンクとは」
事例9.東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社のブロックチェーン技術とDX
東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、経済産業省の「DX銘柄」に2021年〜2023年まで3年連続で選出されている唯一の証券会社。
自社が保有するブロックチェーン技術を活かし、革新的なDXを実現しています。
- 従来は機関投資家のみに限定されていた金融商品を、個人投資家向けにトークン化して販売
- スマホ専業証券サービス「CHEER証券」において、2022年に世界で初めてポイント株主プログラムを連携
- デジタル商品券、ポイント事業、キャッシュレス決済アプリサービス等を通じた地方創生への取り組み
【参考】東海東京フィナンシャル・ホールディングス「DX推進による独創的な経営戦略」
事例10.東京海上ホールディングス株式会社のデータ活用による事故削減
損害保険事業を手がける東京海上ホールディングスは、保険会社として初めて2年連続で「DX銘柄」(2022年〜2023年)に選定されました。
保険事業で培ってきたデータ分析ノウハウを活かし、AIや人工衛星画像などの最新テクノロジーを活用しながら、ドライブレコーダーのデータ分析による事故削減に向けた取り組みを実施。
センサーとスマートフォンを連携した安全運転支援サービスも提供しています。
データ活用により、新たなサービスを社会に価値提供している好事例と言えるでしょう。
【参考】東京海上ホールディングス「『デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023』に選定
事例11.東京センチュリー株式会社が内製したRPA管理システム「ロボットポータルサーバ」
企業の生産性向上の解決策として、多くの企業がRPAを検討・導入しています。
しかし、RPAは提供するメーカーによって得意・不得意があり、導入する上で壁にぶつかることもあります。
導入費と成果が見合うかどうかの検証も容易ではありません。
機器リース事業を行う東京センチュリー株式会社では、様々なロボットを一元管理する統合プラットフォーム「ロボットポータルサーバ」を自社で内製。
これにより、様々なメーカーのロボットを効率的に一元管理し、的確な効果測定を行いながら年間約8,000時間、約90,000件分の作業を自動化することに成功しました。
【参考】東京センチュリーニュース「DXを表面的なもので終わらせないために。今、企業のDXに必要なものとは?」
銀行など金融業界がDXを進める際の注意点
デジタルトランスフォーメーションは、企業の本質を大きく変えるものであり、中長期での取り組みが必要です。
ここでは、デジタルトランスフォーメーションに取り組む際の注意点を紹介します。
社内の理解を得てから実行する
冒頭でも解説したとおり、デジタルトランスフォーメーションは企業の本質すらも変える大きな改革であり、社内全体の理解が必要です。
そのため、経営陣の考えるDX戦略をすべての従業員が理解しておく必要があるでしょう。
また、デジタルトランスフォーメーションの導入においては、業務フローを変更する必要が出てくるなど、デジタル化に合わせた対応が発生します。
よって、強行的に推進するのではなく、事前に推進案を各部署に連携することで、各部署で生じる影響を事前に把握し、課題や問題点を確認しておくことが非常に大切です。
また、デジタル技術に知見を持たない従業員がスムーズに移行できるよう、マニュアルを整備したり、研修体制を整えたりする取り組みも必要です。
システムの導入自体をゴールにしない
デジタルトランスフォーメーションに取り組む際は、自社の課題解決や生産性の向上を目的にしましょう。
デジタルトランスフォーメーションに没頭していると、次第に目的が「システムの導入」へ置きかわって行きがちなのですが、システムの導入はあくまでも手段であって、最終的な目的ではありません。
そのため、自社の課題を解決するために最も効果的なシステムを選定し、最大限の効果を発揮できる運用の設計が求められます。
「せっかく工数をかけてシステムを導入したのに、結果的に社員に使ってもらえない…。」という失敗事例を作らないためにも、課題・目的をしっかり整理してからデジタルトランスフォーメーションに取り組みましょう。
コンプライアンスの徹底
デジタルトランスフォーメーションを導入する際は、コンプライアンス遵守の徹底が求められます。
金融業界は個人の財産データなどの重要な個人情報を取り扱うため、非常に厳しい管理が必要ですよね。
セキュリティシステムの導入などで一定のリスクは回避できますが、人為的なミスについては防ぐためには、従業員がコンプライアンスについて深く理解できるような研修が必要です。
デジタルツールを導入する際は、個々人にユーザーIDを発行し、それぞれのIDに適切な権限付与を設けるなど、最適かつあらゆるリスクを最小化できる状態で管理を行いましょう。
こちらの記事「DX時代に求められるセキュリティ対策とは?導入のポイントを解説」で、セキュリティ対策について詳しく解説していますので、併せて参考にしてくださいね。
まとめ:銀行など金融業界が抱える課題はデジタルトランスフォーメーションで解消できる
いかがでしたか?
市況がめまぐるしく変化する中、競合他社の参入も相まって、金融業界はビジネス存続をかけた変革が必要な状況です。
まずは自社が提供するサービスのうち、投資対効果が最も低い業務のコストカット施策として、あるいは投資対効果が最も高く、今後も成長が見込めるサービスの売り伸ばし戦略として、中長期的に見直しをかけてみましょう。
また、ペーパーレス化の推進や工数削減など、すぐに着手可能そうな業務は現場ヒアリングから拾い集めてみましょう。
DX化への取り組みを検討されている企業の担当者の方は、今回ご紹介した成功事例も、ぜひ参考にしてくださいね。
ここまで読んでいただいた方の中には「自社で何から始めたらいいか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。
現在「DX解説本」を無料配布しておりますので、ぜひご活用ください。